東京大学医学部附属病院の大片慎也病院臨床医らの研究グループは、体液に接触すると瞬時に固化する合成ハイドロゲルを新たに設計し、大量出血時においても速やかな止血が可能であることを実証した。

 外科手術では出血の制御が極めて重要となる。軽度な出血なら、自然な血液凝固反応によって止血されるが、太い静脈や動脈からの出血に対しては止血剤を併用した圧迫止血が必要となる。しかし、既存の止血剤には、止血に長い時間を要したり、ヒト血液成分由来の感染症伝播の可能性があったりするなど、医師・患者双方に負担となっている。

 研究グループは、体液と接触した際に速やかに自己固化する合成ハイドロゲルを新たに設計した。この合成ハイドロゲルは、はじめは液体だが、体液の一種である血液と接触すると瞬時に血液を巻き込んだ固化を起こし、止血に至る。抗凝固薬を加えたラットの血液に対し、開発した合成ハイドロゲルを接触させたところ、血液ごと瞬時に固化することが確かめられた。

 また、ラットの下大静脈大量出血モデルにおいては、1分間で安定した止血効果が得られた。さらに、止血から1週間後の評価では、既存の止血剤よりも軽度な炎症反応に収まることも分かった。

 今回開発した新規合成ハイドロゲルは、生体の血液凝固反応とは独立した作用機序で血液を固化できる。そのため、他の病気や抗凝固薬によって血液が固まりにくい場合でも、速やかに止血できる局所止血材を開発できる可能性がある。また、髄液などの各種体液漏出防止材としての応用も広く期待される。さらに、合成材料であるため未知のウイルスの混入も否定でき、医師・患者双方の精神的負担軽減に貢献できるとしている。

論文情報:【Annals of Vascular Surgery】In vivo hemostatic capability of a novel Tetra-PEG hydrogel

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