北海道立総合研究機構エネルギー・環境・地質研究所、福井県立大学、総合地球環境学研究所の研究チームは、ヒグマの眼の水晶体を用いて、個体の食性履歴を時系列で復元する分析手法を開発した。

 野生動物の行動の個体差を解明するため、これまで直接観察や追跡機器の装着(bio-logging)などの手法が用いられてきた。しかし、多数の個体について長期的な行動履歴を把握するには、繰り返しの捕獲が必要となるほか、機器の寿命やコストの面で課題があった。

 こうした中で近年注目されているのが、動物の組織を用いた「回顧的な同位体分析による行動追跡(iso-logging)」である。特に、動物の眼の水晶体は、生涯にわたって外側に組織が付加され、物質がほとんど置き換わらない。このため、成長方向に沿って分割し、炭素および窒素の安定同位体比(δ13C、δ15N)を分析することで、過去の食性や利用環境を推定できる。ただし、これまで柔らかく壊れやすい哺乳類の水晶体に適用するための手法は確立されていなかった。

 本研究ではまず、ヒグマの水晶体を乾燥して硬化させた後、蒸留水でふやかしながら扱うことで、小さく分割できる前処理法を確立した。そして、分割した組織片について安定同位体比を分析した。

 その結果、対象としたヒグマ7個体すべてにおいて、水晶体の中心から外側にかけてδ15N値が一度低下する共通の傾向が確認された。これは、授乳期から離乳期への食性変化を反映したものと考えられ、食性情報を時系列で復元できることが示された。また、農耕地周辺で捕獲された個体からは、ヒグマによる被害作物として知られるデントコーン由来の高いδ13C値が検出され、デントコーンへの依存度の時系列的な変化パターンの復元にも成功した。

 加えて、同一個体の左右の水晶体は、安定同位体比の変化パターンが非常によく一致しており、両眼がほぼ同じ情報を保持していること、ならびに本手法の再現性が高いことが確認された。

 以上の結果から、水晶体を用いることで、哺乳類の食性の変遷を明らかにできることが示された。本手法により、今後はヒグマの食性の個体差が生まれる仕組みや、基礎的な生態の理解につながることが期待される。

論文情報:【Ecosphere】A novel method for fine-scale retrospective isotope analysis in mammals using eye lenses

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