九州大学生体防御医学研究所の福井宣規主幹教授らの研究グループは、慶應義塾大学の研究グループと共同で、涙の中に含まれる脂質が、免疫細胞の動きに重要なタンパク質の機能を阻害し、眼を炎症細胞の浸潤から守る働きをしていることを世界に先駆けて発見した。
免疫系は、病原微生物などの異物を速やかに排除し、生体を守るために進化した必須の防御システムだが、過剰な免疫応答は、正常組織も攻撃するリスクをはらんでいる。このため、生体には免疫監視機構が発動しにくい組織や空間が存在しており、これらを「免疫特権部位」と呼ぶ。眼もその一つであり、これまでにいくつかのタンパク質が免疫回避に働くことが報告されているが、生理活性脂質の役割については不明だった。
研究グループは、免疫細胞が動くために必須の分子DOCK2というタンパク質に着目し、その阻害物質の探索を進める過程で、コレステロール硫酸という脂質がDOCK2の働きを強力に抑制し、免疫細胞の動きを止めることを発見した。マウスを用いた詳細な解析の結果、コレステロール硫酸は、涙に脂質成分を供給する組織であるハーダー腺(ヒトのマイボーム腺に相当)で大量に産生されており、実際に、涙の中には多量のコレステロール硫酸が含まれていた。コレステロール硫酸が産生できないように遺伝子操作したマウスでは、紫外線照射や抗原投与により、免疫細胞の浸潤を伴う眼の炎症が悪化した。一方、この炎症は、コレステロール硫酸を点眼することで抑制された。
今回の研究成果により、コレステロール硫酸は免疫特権を人為的に付与したり剥奪したりするため方法を開発する上で、格好の標的分子となることが期待される。