高等学校学習指導要領解説「理数探究」の中では、「事象を分析するための基本的な技能」「数学的な手法や科学的な手法などを用いて、探究の過程を遂行する力」を身に付けることができるように指導する旨の記載があります。また、その詳細な説明として「観察、実験、調査等で得られたデータには誤差やばらつきがあることを考慮して、・・・(中略)・・・それぞれの場合に適したデータの処理方法や変数の関係性を見いだすためのグラフ作成の技能を身に付けさせるようにする」「数学科や情報科で学習する統計的な内容と関連させながら」といったことも記されています。

 高校の探究活動における「データ処理」に関する指導はどのように行われているのでしょうか。筆者の実践を紹介します。

 

1.表計算ソフトの使い方

 筆者の勤務校には「理数科」という学科が設置されており、理数系分野に関する探究活動を行う「理数探究」が2年次に設定されています。「理数探究」の中では「統計処理講座」を実施しています。

課題1:ある物質Xの植物に対する作用を調べるために、種子から育てる際にXを投与するorしない実験を行ったところ、1か月後の草丈は以下のようになった。
個体間に遺伝的な差異や生育環境の差は物質の有無以外にはないものとする。物質Xによる影響はあるかないか、判断せよ。

 現在、本校生は配付されたタブレット端末もしくは個人のタブレット端末を学校に持参しています。各自の端末でこの課題を開くと、次のような表計算シートも添付されています。

 さて、ここで生徒に問いを投げかけます。

「この実験結果を、皆さんならどのような方法で評価しますか?」

 すると、「平均値を計算して比較します」という答えが返ってきます。

 ここで平均値・個数・標準偏差などの関数について紹介し、「こちらにも同じような関数をもう一度入力するのは面倒だよね」ということで、関数がコピーできることを説明すると、「あれ?おかしな計算結果になった?」「範囲指定が1つずつずれている??なぜ??」ということを生徒が考えて、相対参照・絶対参照の概念を学びます。

 コンピューターのスキルの習得も大事かもしれませんが、このように置かれている状況や入力内容の規則性からルールをひも解いていく過程が、思考力を育成する上で重要だと考えています。

「標準偏差の関数がわからないときは『ヘルプ』に聞いてみよう!」

 関数をすべて覚えるのではなく、その都度必要な情報を探してくることができる。これもとても重要なことです。

 このように、街のパソコン教室のようなところからスタートします。「高校2年生なのに、関数の使い方から指導を始める必要があるのか」と感じた読者の方もいるかもしれません。

 今の高校2年生は2008年生まれ、いわゆるデジタルネイティブ世代です。物心ついたころから、インターネットやその関連サービス、スマートフォンなどの通信機器が身近にあります。しかしながら、「最近の新入社員はスマートフォンの操作はできても、パソコンで仕事ができない」という現象が国内企業で起こっているそうです。

 2023年の総務省「通信利用動向調査」によると、パソコンの世帯保有率は65.3%で、最盛期の2005年(87.2%)から減少傾向にあるそうです。スマートフォンでコンテンツには慣れ親しんでいるものの、表計算などの実務的な処理はもちろん、パソコン操作自体に不慣れであるというわけです。筆者が高校の教育現場で指導を始めた18年前と比べると、本校に限らず、高校生のパソコンスキルは年々下がっていると感じています。

2.グラフ作成や適切なグラフの表現について

「平均値同士を見やすく比較したいとき、他の人にもわかりやすく伝えたいときにはどうしたら良いだろうか?」こう生徒に問いを投げかけると、「グラフを作ると良いと思います」という答えが返ってきます。

このようなグラフが生成されました。果たして、物質Xの投与・非投与で草丈に差はあるのでしょうか?

 

「同じデータでも表計算ソフトの仕様によっては、このように生成される場合もあります」と提示します。

 

 これは縦軸の表示範囲が、25~35cmという限定された範囲をクローズアップした形になっているグラフです。そのように自分の端末に表示された生徒は「物質X投与区の方が草丈は高い」と判断する場合もあります。ですが大抵は、この2種類のグラフを並べられると、「これはごくわずかの違いだから誤差だ」という判断に落ち着きます。しかし、「どこまでの範囲だったら誤差で、どこからは有意差ではないのだろう?」と問いかけると、生徒たちは答えに窮します。

 ここで、誤差範囲を判断するためのツールとしてエラーバーを紹介し、「標準偏差とは何か」「標準誤差とは何か」「今回の場合はエラーバーとして表示するものは標準偏差と標準誤差のどちらが好ましいのか」ということを議論します。

また、意図的に印象を操作するような事例についてもここで学びます。

・グラフが途中から始まっていて、わずかな差を大きく見せている。
・(割合に関するグラフで)もっと大多数を占める別の項目があるのに、その部分が省略されており、ごく一部のデータだけが見えている。
・立体的なグラフにして、遠近法を利用することで大きく見せたいものを誇張している。
・軸の目盛りが均等ではない、異なる種類の目盛りが混在していて、比較しにくくなっている。

などなど…広告や報道での事例なども交えて紹介します。「情報Ⅰ」の中では、一部の教科書で「印象操作」が発展的な内容として取り扱われています。探究活動ではグラフを「見せる側」ですが、日常生活の中で「物事を適切に判断する」上で重要な能力でもあります。ここまでが統計処理講座の第1回の内容です。

3.仮説検定について

統計処理講座の第2回は「仮説検定」です。

 現在の高校では、数学B「統計的な推測」の単元で、情報Ⅰ「データ分析」の単元でそれぞれ「仮説検定」を学習します。本校では、いずれも2年次に履修しますので、理数探究と同時進行で仮説検定に関する学習を行うことになります。

 さて、「統計処理講座」の第2回では前述の植物の草丈に有意差があるかどうかを検定によって判断します。

「まずFTESTという関数を探してみよう」
「次にTTESTという関数を探してみよう」
「この入力について、ヘルプに聞いてみよう。対応のある検定の場合は1を入力するように書かれてあるけれど、対応のある検定というのは・・・」

見よう見まねで操作する生徒たち。

計算結果が出てきたところで、「これは偶然一致した実験結果が出てしまう確率を示していて・・・」と仮説検定の概念を説明します。細かい計算は表計算ソフトや統計処理ソフトがやってくれますので、計算方法には触れません。

「今回の検定は、2群間の比較で、正規分布に従うときに使う方法です。では、正規分布に従わないとき、従うかどうかわからないときは・・・?」
「3群以上の場合は?」

「自分の探究活動で必要になったときに、どんな検定が適しているのかはWebに情報がたくさんあるから検索して、その都度適した方法を選んで使いましょう」ということで、統計処理講座第2回は終わります。

 高校生全員が統計学分野の研究者を目指しているわけではありません。各々興味のある分野は異なり、ツールとして仮説検定を用いることになります。よって、自分の出したデータに適した検定手法はどれなのかということを、その都度Web検索や生成AIからの情報をもとに判断して適切に取捨選択し、計算そのものはソフトで行うということができれば十分だと思っています。

 筆者も統計学分野の専門家ではありませんから、さほど詳しくありません。よく使う手法以外は、恥ずかしながら「これで良いのかな?」と分からなくなることもありますが、その都度、検索して調べて、計算はフリーソフトに頼っています(大学時代に「生物統計学」の講義で教えていただいた先生、申し訳ありません)。

 多くの人が、スマートフォンの中身や動作原理はわからなくても、コンテンツ消費のツールとして使うことはできていますので、それと同じではないでしょうか。わからないときは調べて、試行錯誤。統計処理だけでなく、何事もこれが大事だということを生徒に分かってもらいたいと日々、願っています。

秋田県立秋田高校 教諭 博士(生命科学)

遠藤 金吾さん

埼玉県立川越高等学校卒、東北大学農学部卒、東北大学大学院生命科学研究科博士課程前期・後期修了、博士(生命科学)取得。東北大学加齢医学研究所科学技術振興会特別研究員を経て、2008年より、秋田県の博士号を持つ教員として採用。2016年より、現任校(秋田県立秋田高等学校)に勤務。専門は「DNA修復と突然変異生成」。

 

大学ジャーナルオンライン編集部

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