親子が滑り台で一緒に遊ぶと、多くの場合に大人の方が子どもより速く滑ることに気づくだろう。同様にスキーや自転車も、“重いほど速く動く”ことが想起される。

 しかし、高校の物理で学習した通りなら、重いものも軽いものも、慣性の大きさと重力が質量に比例するため、一様な重力場の中で落下加速度が一定となる(自由落下の一様性)。自由落下ではなく摩擦のある斜面でもやはり、摩擦力が質量に比例するため、質量によらず全て同じ加速度で滑ると考えられる。

 立教大学理学部4年生(当時)の塩田将基氏は、指導を担当した村田次郎教授とともに、この教科書で学ぶ物理法則と生活経験の矛盾を卒業研究のテーマとして取り上げた。「重い人ほど滑り台を速く滑るのはなぜか」という疑問に対し、同じ大きさだが質量の異なる物体(同じ段ボール箱の中に本数を変えて水の入ったペットボトルを入れた)を大学そばの公園で滑り台に実際に滑らせることで、加速度の変化を調べた。

 その結果、物体は滑り台でどんどん加速するのではなく、一定の終端速度に達して滑ることがわかった。また、この終端速度は物体が重いほど大きくなることもわかった。つまり、重い人ほど滑り台を速く滑るのは気のせいなどではなく、質量が大きいほど終端速度が大きくなる現象として明確に確認された。

 これは、通常は一定値を取ると学習する動摩擦係数に、実際には速度依存性と質量依存性があると解釈できるという新しい知見である。ただし、この性質はローラー式滑り台でのみ確認されており、教科書で想定している伝統的な金属板式滑り台で同様の観測を行った結果では、動摩擦係数が一定であることと矛盾を認めなかったとしている。長距離の金属板式滑り台や、パイプ式、石材製など異なるタイプの滑り台では、別の結果になる可能性もある。

 本研究成果は学術論文として異例の反響を生んだといい、好奇心に響く親しみやすい探究学習の好例として紹介されている。

論文情報:【物理教育】すべり台の動摩擦係数の実測研究

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