総合型選抜・学校推薦型選抜の年内入試の多くが専願での受験を求めています。志望度が高い受験生を想定した選抜方式なので当然かも知れません。しかし、来年2025年度入試に東洋大学が併願可能な学校推薦型選抜を新規に導入予定です。近畿地区の私立大学では併願できる公募制推薦が一般的に行われていますが、首都圏の大規模私立大学での導入は初めてではないでしょうか。

 

首都圏で学力型の年内入試が拡大中

 来年2025年度入試では、東洋大学が併願可能な学校推薦型選抜を導入します。東洋大学以外の他大学の一般選抜との併願も可能で、試験科目は英語・国語もしくは英語・数学の2教科型です。学校推薦型選抜と聞けば、多くの人がほぼ面接とセットだと考えることでしょう。しかし、ここではそれが課されていません。これでは一般選抜と同じと思うかも知れませんが、近畿地区では珍しいことではありません。

 例えば、次のような入試概要を見てどのような印象をお持ちになるでしょうか。「試験日は2日間あり試験日自由選択制。試験教科は英語と国語または英語と数学、学部によっては数学と理科。試験会場は本学会場以外に約20会場から選ぶことができる」。どう考えても典型的な私立大学の一般選抜の入試概要です。しかし、これは近畿地区のある私立大学の学校推薦型選抜(公募制)の入試概要です。

 実はこうした学校推薦型選抜は20年以上前から特に近畿地区で広く実施されており、近畿地区の受験生にはほぼ常識となっています。多くの場合、私立大学の一般選抜は1月末から2月上旬に始まります。1回目の入試のため、かつては第1期入試などと呼ばれていました。そして、2月下旬や3月に行われる2回目以降の入試を第2期入試と呼んでいました。今は1期入試以外にも前期入試やA日程と言う場合もありますが、以前はシンプルに1期、2期と称されていました。このことから、近畿地区で年内に行われる併願可の学力試験型の学校推薦型選抜は、1期よりも前に行われる0(ゼロ)期入試などと呼ばれていました。

 ここで東洋大学の新入試に戻ると、今回の新入試は、首都圏の大規模私立大学が0期入試に近いスキームで学校推薦型選抜を実施する、初めてのケースになるのではないかと思います。実は東洋大学は、初の試みを行うことが多い大学です。紙製の大学案内を廃止してネットに移行したのも東洋大学が初だったと思います。また、今は多くの私立大学で見られる高層タワーの校舎も東洋大学から始まったと記憶しています。

 この併願可の学力試験型の年内入試は、首都圏で東洋大学以外でも導入する大学がいくつかあります。例えば、関東学院大学の総合型選抜(基礎学力評価型)、共立女子大学の総合型選抜(基礎学力方式)、桜美林大学の総合型選抜(基礎学力方式)などです。ただし、共立女子大学は事前課題が課されており、関東学院大学と桜美林大学は面接が課されています(桜美林大学は2024年度から実施、2025年度は2回実施される)。

東洋大学「入試情報・要項」https://www.toyo.ac.jp/nyushi/

かつては様々な規制が行われた学校推薦型選抜

 学校推薦型選抜には、過去に様々な規制がありました。1994年には、大学審議会(今の中教審大学分科会)の答申に基づいて、出願受付は11月1日以降にする。募集人員の割合は付属高校からの推薦を除いて大学は3割、短大は5割を超えないことを目安にする。学力試験を行わない。という現在にもつながる3原則による規制が行われました。その理由は高校教育への影響に対する配慮です。

 この頃、すでに近畿地区の一部の私立大学では、学力試験ありで併願可の学校推薦型選抜が行われており、規制を受けてどうなるかと思われましたが、学力試験は入学後の学修への適性(この場合は基礎学力という意味)を確認するための適性テストと名称を変えてほぼそのまま継続されました。その後、2000年には、募集人員の規制が変わり、大学は付属高校からの推薦を含めて5割を超えない範囲、短大は規制なしとなりました。

 この間に、学校からの推薦を必要としない自己推薦を始める私立大学も出始め、さらには現在の総合型選抜がAO入試の名称で急拡大し、学校推薦型選抜との区別もやや曖昧化しました。その後、高大接続改革で2021年度入試から、総合型選抜の出願は9月以降、合格発表は11月以降、学校推薦型選抜の出願は11月以降、合格発表は12月以降と整理されました。ただ、募集人員についての規制は大学5割、短大なし、とそのまま残されました。そして、もう1つの規制の学力テストはむしろ実施が推奨されることになります。その時、例示された学力の評価方法は、大学入学共通テスト、小論文、プレゼンテーション、口頭試問、実技、各教科・科目に係るテスト、資格・検定試験の成績などとされ、学力試験が許容されることになりました。

 ただ、この学力試験の実施については別の決まり事があります。文部科学省が毎年通知する「大学入学者選抜実施要項」によると、学力試験(通知では学力検査)を伴う一般選抜は、2月1日から3月25日の間に実施せよとされています。2月1日以前に実施しても良い評価方法としては、小論文、プレゼンテーション、口頭試問、実技が例示されています。

 ここで解釈が難しいのは、年内入試で実施できる「各教科・科目に係るテスト」と一般選抜での「学力検査」は何がどう異なるのかという点です。ただ、これを明確にしてしまうと、学力試験あり併願可の学校推薦型選抜(公募制)が実施できなくなってしまうことにもなりかねません。それは受験生にとっても機会損失になるので好ましいことではありません。このまま曖昧にしておくことが公益に資すると考えるステークホルダーが多いのではないでしょうか。

併願可+学力試験型の年内入試の今後

 今後の年内入試の動向への影響という点でも、東洋大学の新しい学校推薦型選抜は受験生以上に周囲の私立大学が注目していると思います。試験日は12月1日、合格発表は12月10日となっています。1次手続き締切日は12月17日なのですが、巧妙なことに2次手続締切日が2月28日に設定されています。2月28日は、MARCHの合格発表がほぼ全部終わった後になります。つまり、MARCH各大学の志望者で、この入試の合格者は一般選抜で他に併願校を考える必要がないということです。これはマクロ的に見ると併願校数減少よる延べ志願者数の減少を意味します。述べ志願者数が減るということは、東洋大学も含めて首都圏私立大学の一般選抜の志願者数が減少するということです。

 今後の注目点は、この新しい学校推薦型選抜でどれぐらいの規模の合格者数が出されるかという点です。前述のように合格者数の規模によって、周辺私立大学への影響の規模が決まるからです。恐らくいくつかの首都圏の私立大学は、このことを見越して、年内入試の合格者数を増やすことを考えているでしょう。それではさらに一般選抜の志願者数が減少しますが・・・。

 この東洋大学の新しい学校推薦型選抜が成功すれば、同様の学校推薦型選抜(併願可+学力試験型)は他大学にも広がっていくことでしょう。一般選抜の志願者数はますます減少していき、いずれ一般選抜は実施すれども実態無しの私立大学が増えるかも知れません。

神戸 悟(教育ジャーナリスト)

教育ジャーナリスト/大学入試ライター・リサーチャー
1985年、河合塾入職後、20年以上にわたり、大学入試情報の収集・発信業務に従事、月刊誌「Guideline」の編集も担当。
2007年に河合塾を退職後、都内大学で合否判定や入試制度設計などの入試業務に従事し、学生募集広報業務も担当。
2015年に大学を退職後、朝日新聞出版「大学ランキング」、河合塾「Guideline」などでライター、エディターを務め、日本経済新聞、毎日新聞系の媒体などにも寄稿。その後、国立研究開発法人を経て、2016年より大学の様々な課題を支援するコンサルティングを行っている。KEIアドバンス(河合塾グループ)で入試データを活用したシミュレーションや市場動向調査等を行うほか、将来構想・中期計画策定、新学部設置、入試制度設計の支援なども行なっている。
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