九州大学カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所(I2CNER)/大学院工学研究院の小江誠司主幹教授らと熊本大学大学院先端科学研究部の速水真也教授らの共同研究グループは、「燃料電池」、「水素製造」、「水素化」の3つの水素利用を可能とする1つの新しい触媒を開発することに成功した。

 水素と空気中の酸素の反応によって発電し、排出されるのは水だけという燃料電池に代表されるように、水素はクリーンなエネルギー源として注目されている。効率よく水素を利用するためには、反応を促進する触媒の開発が鍵だ。

 触媒の働きは燃料電池においてだけではない。水素の製造や、水素を付加させる水素化にも、触媒が必要となる。実は既に自然界には、こうした水素の合成や分解を担う「ヒドロゲナーゼ酵素」が存在するが、活性部位に持つ金属によって3種類のヒドロゲナーゼ酵素に分類され、それぞれの触媒機能が異なるという。

 本研究では、この3種類の天然ヒドロゲナーゼ酵素の構造からヒントを得て、3種類全ての構造を模倣できる触媒分子を設計した。すなわち、同じ分子式で構造だけが異なる3種類の異性体によって、3種類のヒドロゲナーゼ酵素のように(1)燃料電池の水素電極の触媒、(2)水素製造の触媒、(3)化学工業の水素化の触媒として働くことができる1つの触媒の開発に成功したという。

 この触媒は、車のハンドルを回すように分子内の一部分を回転させることで、3種類の異なる機能の触媒に変わることができる。天然ヒドロゲナーゼ酵素と違い、触媒の構成要素を変える必要がないことは優れた点だ。

 本研究で得られた知見は、水素社会の実現に向けた次世代の触媒開発につながるものと期待される。

論文情報:【Science Advances】[NiFe], [FeFe], and [Fe] hydrogenase models from isomers

大学ジャーナルオンライン編集部

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